こんにちは。福岡のライター・大塚拓馬(@ZuleTakuma)です。
今回は九州デザイナー学院のイラストレーション学科で講師をされている、古賀涼子(@RismKoga)さんより取材依頼をいただきました。
そもそも「専門学校」って、どんなところなんだろう……。
漠然と浮かぶのは「ご近所物語」とか「Paradise Kiss」の矢澤芸術学院のイメージ。
僕は専門学校について、ほとんど何も知らないことに気がつきました。いったい、どんなことを教えているんだろう…?絵の技術はもちろんそうだと思うけど、それ以外は…?
イラストレーターの卵たちに古賀さんが教えていることとはどんなことなのでしょうか。
- イラストレーション学科の先生は何を教える?
- フリーで生き抜くには? 自分のイラストが輝く場所を知る
- 積極的に外へ出よう! 「産学協同」に力を入れる理由
- 「クリエイターの活動を応援する福岡であってほしい」
- 「福岡愛 × イラスト愛」今後の活動に期待!
イラストレーション学科の先生は何を教える?
僕は取材依頼をくださった古賀涼子さんにお会いするため、博多駅のそばにある「九州デザイナー学院」に向かいました。
▲古賀涼子さん
九州デザイナー学院には9つの学科がありますが、古賀さんはイラストレーション学科の学科担任として勤務していらっしゃいます。
講師になったきっかけは「面白そうだったから」
――古賀さんは今、こちらの九州デザイナー学院で講師をされていらっしゃるんですよね。
古賀さん:はい、イラストレーション学科の学科担任をやっています。
――九州デザイナー学院の講師になってから、結構長いんですか?
古賀さん:実は講師のキャリアは4月から5年目に入るところで、そんなに長くはないんですよ。2016年の3月からここにいます。
――あっ、そうなんですね! 講師になる前は何をしていたんでしょうか?
古賀さん:もともとフリーランスでイラストレーターをやっていまして。現在も講師業の傍ら、イラストも並行してやっていますよ。
▲フリーイラストレーター・古賀涼子さんのオフィシャルサイト
――講師を始めようと思ったきっかけは何だったんですか?
古賀さん:ゲスト講師で単発で呼んでもらってご縁はあったんですよね。そしたら「イラストの先生が足りなくなるから来ない?」と言ってもらえて。
――フリーランスから講師になるなんて、不安はなかったんですか?
古賀さん:常勤の講師というところは少し不安でしたが、迷わずOKしました。小さなころから「学校の仕事と絵の仕事を両方やりたい」と思っていて、作文に書いたこともあったんですよね。
――なるほど! 図らずも夢がかなった格好ですね。
「うまけりゃ仕事が来るわけじゃない」
――僕は専門学校に通った経験がないので全くわからないのですが、専門学校の授業ってどんなものなんでしょうか? 教科書はあるんですか?
古賀さん:市販の本屋さんの本を教科書として使うケースもありますが、教科書のない授業が多いと思います。イラストレーション学科なら、Adobe Illustratorの授業くらいじゃないですかね。あとはもう手を動かしてもらって、個別指導です。
――課題をやりながら、教えていくという感じですか?
古賀さん:クライアントとのやり取りの練習って感じですね。
――なるほど。課題が仕事で、先生がクライアントで、そのやりとりの練習とか、もっとこう直して……とか、そういう感じですか。
古賀さん:そうですね。「絵が上手くなろう」というよりは、「仕事で使える絵を描けるようになろう」という方針で指導してます。
――なるほど。うまいと仕事が来るわけじゃないですもんね……。
古賀さん:そうそう。「画力さえあれば仕事が来る」と勘違いしがちだから「そうじゃないよ」と教えてあげるところから始めます。
――でも、高校を卒業したばかりくらいの子が多いわけですよね。「ようし、うまくなるぞ!」と思って入学したのに「うまけりゃいいってわけじゃない」と言われてしまうと、困惑しそうですが……。
古賀さん:そうですね。「なんか絵が好き」くらいで入学する子も多くて、仕事にするってどういうことなのかをイメージするのは難しいと思います。だから、入学前授業で仕事で絵を描くとはどういうことなのか、月1で教えます。
――「ウマけりゃいいわけじゃない」と理解して入学するのは、大きな意味がありそうですね。
古賀さん:うちは2年間しか通える期間がなくて、2年目からは就職活動も始まるので、実質勉強らしい勉強は1年間だけなんですね。とにかく「仕事ができる人間になる」ことを目的に指導します。
――1年で「絵がうまくなろう」といっても、目標が壮大すぎて限界があるでしょうしね。それよりは、社会で生き抜く術を学んだうえで、それに必要な技術を学んだ方がいいかも。
古賀さん:「うまくなってから仕事をしよう」だと、なかなか動き出せないんですよ。ほかの学校から見ると、私はちょっと稼ぐことにガツガツしすぎだと思われるかもしれませんね。でも「生き抜くこと」を大切にしてほしいんですよね。
フリーで生き抜くには? 自分のイラストが輝く場所を知る
――イラストレーションは人それぞれで絵の個性が違うので、カリキュラムに沿って教えていくのは難しいですよね?
古賀さん:決まったカリキュラムというよりは、それぞれに合った道を歩ませるという感じですね。
――学生は、具体的にどんな授業を受けることになるんでしょうか?
古賀さん:画材でとことん描く授業や、photoshop、ipadを使ってデジタルで180分しっかり描く授業があります。Adobe illustratorを習得する授業なんかもあります。ちなみに、これは2年間のスケジュールなんですが……
▲「プロへの道」と題された2か月のスケジュール
――「プロへの道」ですか! へ~……。えっ、入学前の目標が「プロへの意識形成」、1年生前期で「関わりたい企業が言える」ですか。すごい。
古賀さん:今の子は広告やパッケージ商品関連を志望する子と、ゲーム制作の会社を志望する子が二大勢力な感じですね。
――入学後に現実を見て、最初は「ゲーム」と思ってたけど、「ポスターのデザインもアリだな」と考えて、進む道が変わるケースもあるんじゃないですか?
古賀さん:ありますあります。「スマホのゲームのキャラクターを描きたい」と思ってる人は多いんですが、倍率がすごくて50人いて1人2人。だからやっぱり違う道も見せていかないと。
――ちなみに絵の仕事って、昔と比べて増えてきているんでしょうか?
古賀さん:絵の仕事は増えていますね。Webやアプリなど、仕事の幅が増えているので、そういうものに対応できれば十分生きていける時代です。ただ、仕事の幅に対応できないままだと「仕事がない」と苦しんで、結果辞めてしまうことになります。
――今はロールモデルとなるようなイラストレーターがどう仕事しているのか、という情報も手に入れやすいですしね。
古賀さん:憧れの絵師さんがいて「こうやればいい」というのはわかるけど、やる勇気が出ない人が多いんですよ。ここには絵を描く子がいっぱいいるので「私もやろう!」と一歩踏み出しやすいわけです。専門学校の存在価値はそういう「背中押し」にあると思います。
――業界の広さを知り、自分のイラストがハマる需要はどこにあるのかを探して、自分から一歩踏み出すことが大事ですよね。「もしそれでダメだったらどうしよう」という不安もありますけど。
古賀さん:やってみて「合わないな」と思う人もいます。でも「合わない」という判断を早めにするのも、自分に合う道を見つけるためにすごく大切なことなんです。わからないまま、モヤモヤ進むよりはハッキリした方がいいですから。
――現実的ですね。結局気がつくことは、先に知っておいた方がいいですもんね。厳しく見えるかも知れませんが、長い目で見ると絶対そう。
古賀さん:会社員時代、私はフリーのイラストレーターになろうとしていた割にはあまり「自分の生き抜き方」を考えていなくて、フリーになった後苦労したんですよ。それで、学生にけっこう生々しいことをガンガン言っちゃいます。笑
――ライターも同じですよ。自分だから書ける記事って何なのか、なかなか考えられないんですよね。文字単価とかばっか気にして。笑 僕もそれを知ってから、ようやく少し道が見えてきたのかな、という感じです。
古賀さん:ですよね。イラストレーターとして、どこでどう生きていくか。そういった考えなしに「とにかく描く!」だと小さなカットを延々と作業のように描くことになります。それだと生きていきづらくなるので、早めに自分の稼ぎ方の方向性を持つのが大事です。
――こういう意識って、既に独り立ちしている人でもできてない人が多いと思います。若いうちに、稼ぐ感覚を持った人材になれていると得ですよ。めちゃめちゃ大事なことを教えておられる……。
古賀さん:フリーだったら誰も言ってくれないませんからね。ただ仕事がないだけ。だから、在学中に叩き込まれておくというのは大切なことだと思うんですよ。いろいろ言っちゃって、お母さんっぽくなっちゃう。笑
――独り立ちしてから「あぁ、古賀先生が言ってたのはこういうことかぁ」ってことも多々あるでしょうね。笑
古賀さん:在学中はアドバイスを聞いてくれないこともあるけど、それはそれでいいと思っています。後で分かったと聞いた時は「仕掛けが効いたなぁ」と思います。笑
「仕事を請け負う授業」の存在
――学生時代から仕事を受けるようになる生徒もいるそうですね。
古賀さん:そもそも「仕事を請け負う授業」があるんですよ。お金も単位も手に入る授業があります。
――へえ、面白い。笑 いいですね!
古賀さん:稼げた額だけ評価が高くなります。ランサーズ、スキマ、ココナラなんかを自分で見つけて自分でやって。その売上によって単位がつくということもやっています。一件一件、ちゃんとサポートはするんですよ。
――クライアントと接するのが一番勉強になりますよね。なかなか踏み出せない子も先生がサポートしてくれるとなると「やってみよう」と思えるでしょうし。
古賀さん:この授業で芽が出てくる子がいて、ほかのバイトくらい稼げることもあります。うまくいく場合は就職活動をすっ飛ばして、フリーランスデビューしちゃおうかということもありますよ。
――刺激になるでしょうねコレは……。社会にちょっと出たようなもんですね。つまり「よく稼ぐ友達」を間近で見ることになる。自分にもできるんだと思えるというか。
古賀さん:楽しい人はめちゃ楽しいと思います。いきいきしてくるようになるので、こっちも見ていて面白いですよ。
――自分が夢描いていたものが「できるかもしれない」と思うと、わくわくしますもんね。
古賀さん:一方で残酷にハッキリと差がつくという側面もあります。学生のうちからリアルをたっぷり経験してほしいですね。
積極的に外へ出よう! 「産学協同」に力を入れる理由
――古賀さんが九州デザイナー学院の講師として新たに挑戦していることはありますか?
古賀さん:外部に視野を広げることを大切にしています。企業と連携して、学校ではないところで作品の展示や販売を行っています。
――具体的にどのようなことをされているんでしょうか?
古賀さん:去年はブックオフ天神のポップアップショップをやりました。また、毎年、警固神社で秋の月華祭というお祭りがあるんですけど、それに物販として参加してます。姪浜のウエストコートというショッピングモールで、大きな黒板にアートを描かせてもらったこともありました。いろいろやっています。
▲九州デザイナー学院イラストレーション学科の産学協同のまとめ
――古賀さんが積極的にやり出すまでは、あまりそういう動きはなかったんですか?
古賀さん:なかったわけじゃないんですけど、以前は「学業優先」という空気もありました。私は「実践積んでこそだろ」というタイプなので、どんどんいっちゃいます。
――外と関わることで学生に変化はありますか?
古賀さん:大人と直接かかわることで変化はありますね。見ず知らずの「あ、かわいい」という声が聞こえたり。それがうれしいとか。
――クライアントの反応、世間の反応を受けて嬉しいというのはプロの一歩目ですよね。一人で描いている世界とは全然違いますし。
古賀さん:私が若いころは天神の警固公園とか博多駅前で毎週のようにフリマをやってて、そこで自分の作品を売る人がすごく多かったんですよ。私も売っていて、月5万くらいのお金になっていました。中村満(326)さんがやっていたのを見て、私も始めたんです。
――フリマではどんな品物を売るんですか?
古賀さん:ポストカード、ステッカー……。原画も結構売れましたね。自分のイラストを載せたグッズ、文房具や雑貨などを売ります。
――それもまた刺激がありそうですね。人気があるお店が出てきて、差がはっきりとわかるでしょうし。
古賀さん:そうですね。自分がそこまでいいと思ってなかったものが評判がよいのを知れるのも良いですね。それで、また道が変わっていくんです。
――仕事をすると、そういうのが面白いですよね。他者からの言葉で、自分の価値を見つけて視野が広がるのっていいなぁ。
古賀さん:在学中にぐいぐい伸びるには、外部と関わって、いろいろな反響をもらった方がいいと思います。
――それにしても、専門学校って僕の想像以上に実践的ですね。専門学校って普通、こういうものなんでしょうか?
古賀さん:学校によってスタンスはそれぞれあるんですけど、実際は描くことそのものに重きを置く学校が多いという現状はありますね。「上手くなったという実感がないと始まらないでしょ」と言う考えもあるかと思います。
――なるほど。九州デザイナー学院は、実践よりの考えなんですね。
古賀さん:うちが2年制ということも影響しているかもしれませんね。「うまくなろう」というテーマだけで学んでると、2年間練習だけして終わっちゃうんで……。
――それだと、せっかく専門学校に行ったのにもったいないですもんね。
古賀さん:私は世の中が関わった学生の絵で溢れてほしいので「ガツガツいこう」と思っています。
「クリエイターの活動を応援する福岡であってほしい」
――長年福岡でイラストレーターや講師として活動してきて、業界の未来に対して、どう考えていらっしゃいますか?
古賀さん:福岡でアート好きな人が自然と集まるような場所が減っていることを心配しています。画材店や、気軽に若い子でも行けるギャラリーが減っているんです。
――ギャラリーなどの「絵が好きな人が自然と集まるような場所」は、業界の発展に大切なものなのでしょうか?
古賀さん:刺激を与えあうような交流に意味があるんです。会を開いた→友達来ました→おしゃべりしましたで終わることも多い。仕事をするときに、それでは意味がないんですけど……。
――福岡ではそれだけで終わってることが多い、と。
古賀さん:福岡に限らず、ほかの地方都市でもそうかもしれません。少なくとも東京ではそのようなギャラリーがたくさんあります。地域によってテイストに差があって面白い。そのような状況をもどかしいと思う人は、ほかにもいます。同じ想いを持つ人でイベントをやろうとしても、継続できなかったりして。
――この状況を打開するために、学生たちにはどう動いてほしいと思っていますか?
古賀さん:作品を外に出せる場を求めて、自分で動いてほしいと思います。過去に場所を借りて、展示販売やライブイベントをやっていたりする子がいました。もっとそういう子が増えてほしいし、クリエイターの活動を応援する福岡であってほしいと思います。
――福岡はけっして、クリエイターの活動を歓迎しない街ではないですよね。
古賀さん:そうなんですよ。今、ギャラリーは行きづらい場所にしかなくて。好きな人がわざわざ行くだけになってることが多い。だから、最初からアートが好きな人が集まってるだけで、裾野が広がらないという現状があります。
――なるほど。アートに触れたことがない人を引き込むような力が足りていないんですね。
古賀さん:私がギャラリーをつくるなら、一般の人に馴染みやすい場所につくります。一般の人に寄り添うようなアート関係者が少ない気がするんです。面白いことをする人はちゃんといるのに「業界の中で伝わればいい」という雰囲気の人が多い気がします。
――あぁー。なんとなくわかる気がします。そういう場所、入りづらいんですよね。おしゃれなものに、おしゃれな人が集まってる感じ。ダサくてワカってない僕はお呼びじゃないって言うか。
古賀さん:要はアプローチの仕方なんじゃないかとは思うんですよ。イラストレーターの中村佑介さんが「イラスト集が普通にコンビニに置かれていてもいいよね」というお話をされていて。その考え方にすごく共感するんです。一般の人にイラストを親しんでもらう動きの一つになれればと思っています。
▲イラストレーター・中村佑介さんの考えが垣間見える参考記事
――普通の人の暮らしの中にアート、イラストレーションが入っていく余地はまだまだありそうですけどね。福岡の人は「新しいもの好き」なので「え!これとアート組み合わせるの!?」という反応が出るようなものは、大好物なはずです。
古賀さん:「アートぶり過ぎたくない」とは思っています。もっと普通に。かわいい雑貨を手に取るように、原画などのアートを手に取るようになってほしい。福岡にそんな空気がつくれればと思っています。
――今後のアート業界のために、古賀さん自身はどのように貢献したいと考えていますか?
古賀さん:イベント好きなので、イベントをつくっていきたいですね。グループ展の主催をしていたのでそれを広げていきたいです。また、じっくりギャラリーをつくって、継続した発信ができる場所をつくってみたいというのもあります。
――すごいですね! やりたいことはたくさんあるんですね。
古賀さん:福岡から世界を見据えられるようにしたいです。イラストって、言語が関係ないので、海外に向けたアピールも可能です。世界から「このために福岡に行く」という要素になるほどのものがつくれればいいと思います。
――なるほど。僕自身、イラストレーションの世界に興味が出てきました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
「福岡愛 × イラスト愛」今後の活動に期待!
まさか、僕がこんなにイラストやアートについて、楽しく話せるなんて思ってもみませんでした。それはやっぱり、古賀さん自身が「イラストに特別な興味を持たない一般人」の感覚を分かってくれているからだなと思いました。
それにしても九州デザイナー学院って、すごいところでした。僕自身、フリーランスで生きている者として、めっちゃ勉強になった気がします。
うすうす「これ、大事っぽいな」って思ってたことが、「何が大事っぽいじゃ!メチャメチャ大事じゃ!」と喝を入れられた気分です。これを若いうちに学べるなんて、アドバンテージ以外の何物でもない!頑張ってほしい。
そして、古賀さんのアツい野望もワクワクしました。これから古賀さんが福岡でどんな活動を展開されていくのか、僕も最新情報をチェックしつつ、発信していこうと思います。